金沢の旅

金沢を旅する

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　　　　　　　　　　　　　　　　　金沢の旅　１

北陸は金沢の旅に憧れたのは高校生のころでした。　　　五木寛之のエッセイ「風に吹かれて」を読んだからです。　　　　単純に風に吹かれて、　　　金沢の旅をしたいと思ったことを憶えています。　　　　エッセイの内容のほとんどは忘れてしまいましたが、　　　ロシア文学のことや悲惨だった終戦時の引き揚げのこと、　　　そして金沢の街のことが書かれていたという記憶があります。　　　　その後、友人が金沢の大学に入学し、　　　夏休みの帰省で再会した時、　　　とても住みやすい街であることを盛んに吹聴され、北陸の旅はますます金沢に行こうと決意した次第です。　　　　　　　　　大阪から特急「雷鳥」に乗り、車窓からの景色を楽しむこと約２時間４５分。　　　　　　　　北陸の旅を金沢と決めてから２０年以上経過していました。　　　　　　　　すでに五木寛之は金沢から出てしまいましたが、ようやく思いが叶ったのです。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　北陸で最大の都市、金沢ですが、実際に旅をしてみると、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　やはり「加賀百万石の町」なのだということが実感できます。　　　　金沢は言わずと知れた城下町、その中心は当然、金沢城です。　　金沢を旅するときは、　　金沢城が戦国の城であったことを憶えておくと楽しいですね。　　　　　金沢城は加賀一向宗の政治、　　経済の中心として百年続いた御坊でした。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　結局、柴田勝家によって滅ぼされ、　　その後、前田利家が領有することになります。　　利家は農民の再蜂起に備えるため、新しく縄張りを起こし、　　世継ぎの前田利長に命じて築城したのが金沢城です。　　　　金沢の町は歴史がたどった風景を、今の世に残しているところが多く、　　町そのものが歴史博物館であると私は密かに思っています。　　　　　　　　　　　　　　　金沢城跡の石川門を出て名庭「兼六園」を曲がり、長町武家屋敷跡に向かいます。　　　　　　　　　　　　　大野庄用水に沿って歩くと、水野流れに溶け込んでいるかのよう土塀が続きます。　　　　　　　　　　　　　　土塀越しに松が枝を張り、武家屋敷ならではの風情が散策を楽しくしてくれます。　　　　　　　　　　　　　塀の中ほどに用水に引水口があり、水は邸内の庭の曲水を流れ、　　　　　　　　　　　　　また屋敷の外に流れ出てくるのだそうです。　　　　　　　　　小路に入ると、道をはさんで　　　　　　両脇に武家屋敷が密集している風景に出会います。　　　　　　　金沢藩の中級武士が住んでいた町と言われていますが、　　　　　　路地あたりから登城の侍が、　　　　　　今にも飛び出してくるような錯覚に陥ります。　　　　　　　　　長町から犀川（さいがわ）に出て、犀川大橋を渡ると、　　　　　　室生犀星が愛したというなだらかな坂の散歩道があります。　　　　　　橋を渡ると寺町、野町の寺院群にぶつかります。　　　　　　　　　二代藩主利長のとき、散在していた寺をこの地域に集めたものです。　　　　　　その数は７０以上もあるというから驚きですね。　　　　　　　　気の向くままに歩いてみると、　　　　　　時折どこからともなく読経の声が聞こえてきて、　　　　　　旅の情緒をより一層豊かにしてくれるような気がします。　　　　　　　金沢にはもうひとつの寺院群が、卯辰山というところにあります。　　　　　　こちらにはおよそ５０の寺院があるそうですが、　　　　　　これも驚きですね。　　　　　　　　　　　　　　　　寺町、野町と趣を異にしているのは、寺院が山麓に散らばっているからでしょう。　　　　　　　　　　　　　　それにしても、ここも歩いているだけで旅の情緒に浸ることができます。　　　　　そして小さな道がいく筋も走り、　　民家が密集するところを抜けると、　　タイムスリップしたかと思うような花街が現れるのです。　　　　歩いていると、三味線の音が流れてきて目の前を芸者さんが横切る。　　風に吹かれて、五木寛之もこの界隈を歩いたのでしょう。　　　　金沢は時間をかけて散策する町であると思いました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　歩くたびに見つける違う表情の町に魅せられて、　　　　　　　　　　　　　　　また旅をしてみたい思いに駆られてしまう町、それが金沢なのですよね。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「金沢の旅　２」へ